破折歯をインプラントで治療した症例(65歳:女性)
保存不可能な破折歯をインプラントで治療した症例(65歳:女性)
▼60代の女性です。左下の歯が痛いということで来院されました。
診査・診断
診査の結果、左下の前から4番目の歯が折れていることが分かりました。(写真:黄色○)硬い金属の土台により歯が大きく割れてしまっていたため、残すことが難しく、抜歯をしました。抜いた歯を補う方法として、ブリッジ、入れ歯、インプラント、それらのメリット、デメリットなどをお伝えし、相談の結果、インプラント治療で咬み合わせを回復することになりました。
インプラントのメリット
- 隣の歯を削らなくてよい
- 咬み合わせの崩壊が進みにくい
- 残っている歯に過剰な力がかかりにくい
- 自分の歯と近い感覚で食事を楽しめる
- 固定するので付け外す必要がなく異物感が少ない
インプラントのデメリット・リスク
- 【インプラント周囲炎】
インプラントも歯周病と同じで、周りの歯ぐきや骨が炎症を起こします。ひどくなれば周りの骨が溶けてしまい、歯と同じように抜け落ちてしまいます。天然の歯よりもインプラントは細菌に感染しやすいので、インプラント治療後は毎日の歯磨きに気をつけなければいけません。 - 【治療が受けられない・予後不良など】
インプラント治療は手術が必要です。体の病気の状態によっては、インプラント治療ができない場合があります。また、病気に配慮した上でインプラント治療が行えた場合でも、その後インプラントが長持ちしない可能性があります。 - 【神経麻痺】
インプラント手術の過程で下顎の神経に触れてしまうことにより、神経が損傷したり、圧迫されたりして起こります。当院ではCT画像で神経の位置を確認、把握し、神経麻痺が起こらないように精査しております。 - 【血管損傷による出血】
インプラント手術の過程で血管を損傷したとき大量出血する可能性があります。こちらに関しましても、当院ではCT画像で血管の位置を確認、把握し、血管損傷が起こらないように精査しております。 - 【術後感染】
固インプラント手術後、腫れや痛みが長期間続く場合は細菌の感染が疑われます。その場合は抗菌剤の投薬などで様子を見ますが、最悪の場合はインプラントを除去する可能性もあります。当院ではこのようなことが起きないように、手術前の検査や手術中の衛生管理を徹底しております。
CTによる精密検査
▼リスクを抑えたインプラント治療実現のため、歯科用CTによる精密検査を行います。
CTでの精査の結果、折れた歯に細菌が感染しており、外側の骨が大きく失われていました(写真:黄色○)。このままインプラントを埋入しようとしても、骨に固定できない(=インプラントが長持ちしない)可能性がありましたので、まずはインプラントを埋入するための骨を作る手術を行うことにしました。
骨造成法(骨を作る手術)の実施
骨を作る手術をしているところです。歯ぐきをめくると、CTでの診査の通り、外側の骨がありませんでした(写真:黄色○)。骨を補う材料を入れて(写真:青色〇)歯ぐきを閉じました。この状態で半年待ちます。
骨造成手術から半年後
骨造成手術から半年後にCTを撮影しました。すると、骨が失われていたところに、骨様の組織を確認できました。(写真:黄色○)インプラントを固定するのに十分な状態になりましたので、インプラントを埋入することにしました。
インプラント埋入手術
歯ぐきをめくると、CTでの検査通り、失われていた骨の部分に骨様の硬い組織ができていました(写真:黄色○)。インプラントを埋入し(写真:青色〇)、固定の状態が非常に良かったため、同時に頭出しの手術も行いました(写真:白色〇)。
事前のシミュレーションとの比較
インプラントは手術の安全性と、治療後に長持ちすることが望まれます。そのため当院では、コンピューターガイデッドサージェリーを積極的に採用しております。
▼(左図)シミュレーションソフトで設計したインプラントと、(右図)実際に埋入されたインプラント
コンピューターガイデッドサージェリーとは何かといいますと、インプラント手術を行うまでに、専用のソフトを用いて、コンピューター上でインプラント治療を計画した後、手術用のガイド(マウスピースのようなもの)を作り、それを用いてインプラント手術を行うことです。これにより、理想的な位置にインプラントを入れることができ、安全で正確な治療を行うことができます。
この患者様にもコンピューターガイデッドサージェリーを採用し、シミュレーションで設計した通りの位置にインプラントを埋入することができました。
インプラント埋入手術から3ヶ月後
インプラント埋入手術より3ヵ月後の口腔内です。歯ぐきの状態も良好なため、最終的な被せ物の製作へ取り掛かります。
被せ物(上部構造)の製作
歯型の採取
被せ物を製作する技工士にインプラントの位置を正確に伝えるため、歯型を取る専用の器具(写真:黄色○)をインプラントに装着し、精密な歯型を採取しました。
被せ物の完成
インプラントの被せ物は、スクリュー(ネジ)で固定するタイプと、セメントで固定するタイプがあります。今回は、スクリューで固定するタイプを採用しました。
ネジ穴はプラスチックの樹脂で最終的に埋めるのですが、その分、見た目はセメントで固定するタイプより劣ります。しかし、セメントを使用しないため、歯ぐきに炎症が起こりにくく、インプラントに問題が生じた時の対応も容易になります。
ネジ穴にドライバーを入れ、ネジを締めることでインプラントと被せ物をしっかりと固定します。
被せ物を装着して治療完了
ほとんど調整の必要がなく、被せ物を装着することができました。しっかりと食事ができ、また白い被せ物が入ったことで患者様にも非常に喜んでいただけました。今後はインプラントや他の歯が健康に長持ちするように、定期的な検診・清掃を通して健康管理、経過観察をしていきます。
年齢 | 65歳 女性 |
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治療期間 | 10ヵ月 |
治療回数 | 4回(消毒、抜糸を含めると8回) |
治療費 | 671,000円(税込) |
リスク・注意点 | ・過度な力がかかると上部構造(被せ物)が欠けたりする場合があります。 ・十分な骨量がない場合には、骨造成法が必要となり、治療期間が長引く場合があります。など。 その他、リスクの詳細はこちら>> |