ソケットリフトを併用したインプラント治療症例(50代:男性)
ソケットリフトで骨量を補いインプラント手術を実施した症例
保存不可能な破折歯を抜歯後、ソケットリフトで骨量を増やしてインプラント手術を実施した症例をご紹介します。
初診時の口腔内
50代の男性です。左上の奥歯が咬むと痛いということで来院されました。
診査の結果、左上の前から4番目と6番目の歯に連結した被せ物が入っているのですが、6番目の銀歯を被せている歯が割れておりました。患者さまは強い痛みを訴えておりましたので、状態を説明し、抜歯を行いました。
抜けた歯を補う方法として今回は入れ歯、インプラントが可能でした。それらのメリット、デメリットを説明し、患者さまはインプラント治療を希望されました。
歯科用CTによる精密検査
CTでの精査の結果、抜歯したところは顎の骨が大きく失われていました。さらに前から4番目の歯にもヒビ割れが入っていることが判明しました。痛みなどの症状は出ていないものの、骨が無くなっておりました。長期的に見た時に予後が悪いと診断し、患者さまと相談の結果、4番目の歯も抜歯し、4番目と6番目の歯の所にインプラントを入れることになりました。
コンピューターガイデッドサージェリーを採用
インプラントは手術の安全性と、治療後に長持ちすることが望まれます。そのため当院では、コンピューターガイデッドサージェリーを積極的に採用しております。
コンピューターガイデッドサージェリーとは、インプラント手術を行うまでに、専用のソフトを用いて、コンピューター上でインプラント治療を計画した後、手術用のガイド(マウスピースのようなもの)を作り、それを用いてインプラント手術を行うことです。
▼(左)コンピューター上で設計 (右)完成したガイドを装着、適合は良好です
これにより、理想的な位置にインプラントを入れることができ、安全で正確な治療を行うことができます。この患者様にもコンピューターガイデッドサージェリーを採用しました。
骨量を増やすソケットリフト併用してインプラント手術を実施
また、インプラント治療は最低限の骨の高さ・厚みがないと手術ができないこともよくあります。そこで、コンピューターガイデッドサージェリーに加え、ソケットリフトという方法を併用し、インプラントの手術を行うことにしました。
上あごの奥歯の骨の上には上顎洞という鼻の組織があります。抜歯を行うと骨の高さがなくなり、インプラント手術で上顎洞にインプラントが入ってしまうと、細菌感染し蓄膿症を起こしてしまいます。
ソケットリフトとは、インプラントを入れる穴に自家骨や骨補填材を入れて、インプラントをテントの支柱の様にし骨の高さを増やす方法です。
今回はオステオトームという器具を用いてソケットリフトを行うことにしました。オステオトームを用いて上顎洞の底の粘膜を持ち上げ、持ち上げた所のスペースに人工骨や自家骨を入れて、骨の高さを増やしてインプラントを入れる必要量を確保しました。
ソケットリフトのメリット
- 骨の高さ・厚みを作ることができ、通常ではできないインプラント手術が可能になる。
- 他の骨を作る方法よりも外科処置の範囲が小さく、痛み、腫れ、術後出血のリスクが低く、身体への負担が少ない。
ソケットリフトのデメリット
- 作る骨の範囲が限定的。
- 上顎洞の粘膜の状態が確認しにくい。
- 上顎洞が損傷した場合、感染症を起こす可能性がある。その場合インプラントも除去する可能性がある。
インプラント埋入直後のCT画像
【手前】黃矢印:上顎洞の粘膜を持ち上げ、長さ12mmのインプラントが入りました。
【奥】黃矢印:上顎洞の粘膜を持ち上げ、長さ7mmのインプラントが入りました。
インプラント手術から半年後CT画像
【手前】黃矢印:インプラントの周りに骨様組織ができています。
【上顎洞】赤矢印:感染を疑う像は見られませんでした。
【奥】黃矢印:インプラントの周りに骨様組織ができています。
インプラントの2次手術
インプラントの被せ物を作るにあたり、まずインプラントの頭を出す手術を行い、インプラントの周りの歯ぐきの形を整えます。
歯の周りの歯ぐきには、遊離歯肉と付着歯肉があります。簡単に説明すると、遊離歯肉というのは、引っ張ったりすると動く歯ぐきのことで、付着歯肉というのは動かない歯ぐきのことです。
奥歯は基本的に付着歯肉が少ないです。付着歯肉が不足すると、歯を磨いた時に歯の周りの歯ぐきが動いてしまうので、歯とインプラントの根本の部分を磨くことが難しくなります。磨き残しがあると、虫歯や歯周病になってしまいます。
インプラントに関しても同じことが言えます。虫歯にはなりませんが、歯周病になります。
(※インプラントの場合、インプラント周囲炎と言います)
奥のインプラントの部位の周りの付着歯肉は十分あったのですが、手前のインプラントの周りには付着歯肉が不足していました。よって、手前の部分はインプラントの頭を出す手術に合わせて、付着歯肉の幅を増やす方法(今回はbuccally positioned flap)も合わせて行いました。
付着歯肉の幅を増やし、インプラントを掃除しやすい状態にすることで、インプラントが長持ちしやすくなります。
2次手術から1ヵ月半後
インプラントの頭だしの手術をして1ヶ月半後です。手前のインプラントの付着歯肉は幅が増えています。状態も良好なので、歯型を取って被せ物を作ることにしました。
インプラントに装着する被せ物(人工歯)を製作
【歯型の採取】
被せ物を製作する法人内の技工士にインプラントの位置を正確に伝えるため、歯型を取る専用の器具(写真黄色〇)をインプラントに装着し、歯型を取りました。
【完成した被せ物】
製作された被せ物です。インプラントの被せ物は、スクリュー(ネジ)で固定するタイプと、セメントで固定するタイプがあります。セメントで固定するタイプを今回は採用しました。
セメント固定のタイプは、土台と被せ物が別々になっていて、土台はインプラントとスクリューで固定します。土台が骨に入った2本のインプラントの平行性を微調整します。
その土台に被せ物をセメントで固定するため、スクリューの穴は被せ物なく、見た目はとても良いです。その反面、セメントで固定する為、セメントが残っているとインプラント周りの歯ぐきに炎症を起こす可能性があります。
土台の構造と取り付け手順を解説
今回治療で用いる土台の構造と取り付け手順を解説します。
インプラントの取り付け手順
口腔内に土台・被せ物を取り付けて治療完了
土台がきれいにインプラントと固定されました。
ほとんど調整の必要がなく、被せ物が入りました。奥歯で食事がしっかりとでき、きれいな被せ物が入ったことで、患者様は非常に喜ばれました。今後はインプラントと残っている歯を健康的に維持できるよう、定期的な清掃・メンテナンスに通っていただくことになりました。
年齢・性別 | 50代 男性 |
---|---|
治療期間 | 9ヵ月 |
治療回数 | 8回(消毒、抜糸を含む) |
リスク・注意点 | ・インプラントも歯周病と同じで、周りの歯ぐきや骨が炎症を起こします。ひどくなれば周りの骨が溶けてしまい、歯と同じように抜け落ちてしまいます。天然の歯よりもインプラントは細菌に感染しやすいので、インプラント治療後は毎日の歯磨きに気をつけなければいけません。 ・インプラント治療は手術が必要です。体の病気の状態によっては、インプラント治療ができない場合があります。また、病気に配慮した上でインプラント治療が行えた場合でも、その後インプラントが長持ちしない可能性があります。 ・【神経麻痺】 インプラント手術の過程で上顎の神経に触れてしまうことにより、神経が損傷したり、圧迫されたりして起こります。当院ではCT画像で神経の位置を確認、把握し、神経麻痺が起こらないように精査しております。 ・【血管損傷による出血】 インプラント手術の過程で血管を損傷したとき大量出血する可能性があります。こちらに関しましても、当院ではCT画像で血管の位置を確認、把握し、血管損傷が起こらないように精査しております。 ・【術後感染】 インプラント手術後、腫れや痛みが長期間続く場合は細菌の感染が疑われます。その場合は抗菌剤の投薬などで様子を見ますが、最悪の場合はインプラントを除去する可能性もあります。当院ではこのようなことが起きないように、手術前の検査や手術中の衛生管理を徹底しております。 |